困りものなのだ
冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターを手に取る。
返事がないので振り向くと、優紀はシーツで顔の半分を隠し、恨みがましい視線を寄越している。
優紀には見えないように笑いをかみ殺し、グラスに移さず、ペットボトルのままひとくち飲んだ。
羽織っていたバスローブを脱ぎ捨て、
優紀の隣に潜り込む。
シーツの中の優紀を抱きしめると、やわらかな素肌が心地いい。
「怒ってる?」
ふっくらとした乳房に手を這わせながら尋ねると、ためらいがちに小さく頷く。
「怒ってるんだ?」
「今日は一緒にお出かけしてくれるって約束したのに・・・」
「じゃ今から行く?」
優紀はぷいと横を向き、首を振る。
「どうして?急げば、まだ間に合うよ」
総二郎は優紀の肌に手を這わせ、その柔らかな感触を楽しみながら言う。
優紀が行きたくても行けないことを総二郎がいちばんよくわかっている。
ぐずぐずに蕩けさせ、総二郎にあれだけ愛されれば身体がだるいのだろう。
「オレは悪くないよ」
あの交差点からまっすぐタクシーを飛ばし、メープルのスイートに連れてきた。
うなじもデコルテも朱色に染まったなめらかな肌を見せられ、総二郎は堪らず優紀をタクシーに押し込んだ。
ほかの男に見せたくない気持ちのせいだったが、車内で不思議そうに総二郎を見つめる優紀に、煽られてしまった。
「こんなにかわいい優紀が悪い」
抱きしめた腕に力を込め口づけを重ねる。ゆっくりと離れ、優紀を見れば薄く開いた唇は濡れて光り、かすかに震えている。
身体を駆け抜ける快感を堪えているのか、総二郎の腕に触れていた手が滑り落ちていく。
とろりと濡れた瞳には総二郎が映り込んでいた。
いつのまにこんな色気を発するようになったのだろう。
総二郎が優紀と付き合う前の女たちとはまったく異質で、甘くさわやかな色香がほのかに漂う。
自分の手で花開かせたかと思うとうれしいのだけれども、本人の優紀がそれを自覚していないのが。
まったく手がつけられない有様に、実は総二郎は頭を悩ませていることを優紀は知らなかった。
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